日本語を話しているとオージーからは見るとカッコよく思われる事もあるらしい。

「ちょっと悪いけど手伝ってくれないか?」
と言いながらルークがぼくを呼びに来た。ルークはレストラン&バーのスーパーバイザーでプロ意識の高いサービスマンとして会社からの信用が高い男だ。顔はRobbie Williamsに似ている。

ぼくはちょうどディナーの仕込み中でちょっと忙しかったが、日本人のゲストへ通訳をして欲しいとのことだったので、すぐに包丁を置いてルークの後をついていった。ぼくが働いてるホテルには他に日本人がいないのでたまにこうやって部署を超えたヘルプを要求される。でもそれがぼくには嬉しくてたまらないことなんだ。だってこうやって海外で自分のスキルを活かせるチャンスなんだから。



バーカウンターの向こう側には温厚そうな日本人夫婦がぼくを待っていた。
たぶん自分の親と同じくらいかな
「ここでワインをボトルで買って部屋に持って帰って飲むことはできますか?」「どれがおいしいのですか?」「値段はいくらですか?」
簡単な質問だったが自分では答えず全部通訳した。だってルークはぼくに「通訳してくれ」と言ってきたからだ。この辺のところをはき違えて、ゲストからの質問をぼくが答えてしまうと、ルークは嬉しくないのをぼくは知ってるのだ。

けどまぁ通訳だけに徹するのもつまらない。せっかく日本から来たゲストを少しでも笑顔にするのが、ホテルスタッフの役目だ。失礼にならない程度に、この日本人夫婦に世間話を投げかけて少しだけ会話を楽しんだ。

ぼくがこの夫婦と話してる時に右からの視線をすごく感じてたんだ。誰かがじっと見てるって。チラッとそっちをみるとチーガンだった。彼女はいつも笑顔で楽しそうに働いてるホールスタッフの一人で、ぼくもそこそこ仲良くしている。その彼女が忙しい雰囲気の中、手を止めてじっとぼくの方を見ているのだ。「チーガンも日本語分かるのかなぁ?」ってなことを思いながらも、日本人夫婦にワインボトルとグラスを手渡すまでは、自分の目の前のことに集中していた。

温厚そうな夫婦はとても嬉しそうにワインを抱えて何度もお礼を言ってくれた。ぼくも同郷の人間に日本語でサービスできた事にとても喜びを感じた。それに加え日本人としてのアイデンティティを生かして、このホテルに貢献できたことが嬉しくてたまらなかった。そしてまだ仕込みの最中だったぼくは、ルークからのお礼の言葉を受け取った後、急いでキッチンに戻っていった。

しばらくして、ぼくをじーっと見ていたチーガンがキッチンに入ってきた。
そして彼女はぼくの前まで来ると
「さっきのあなたはとてもかっこよかったわ。あなたって英語だけじゃなくて日本語も話せるのね。」
「だってぼくは日本語のネイティブやで。あんなん当然やで。」
そしたらチーガンは「言葉の響きがとても美しかったわ」っとまで言ってくれて舞い上がった(笑)このぼくがこの国にいて「言語」で人から褒められるなんて思ってもみなかった。

英語ではいつも人より話せなくて落ち込んだりしてる中で、オーストラリアでは特別な「日本語」のスキルを持ってる自分に気づかされた。ぼくら日本人が持ってて当たり前のスキルだけど、それをオージーの目には特別に映るもんなんだぁと思った。ぼくが日本にいた頃、バイリンガルやアメリカ人にあった時に感じたあの感覚と同じなのかな。ゴールドコーストには敢えて日本人の前で英語しか話そうとしない人もいるけど、ぼくはこのスキルを堂々と胸に抱えてまた前に進むぞ。